バブル期の雇用過熱、そして就職氷河期、再び雇用過熱と新卒採用をめぐる大きな起伏があったが、新型コロナ収束後、人材採用や職場環境はどう変わるだろうか。さて、今春スタートを切った新入社員の多くはウェブ入社式やオンライン研修などのほか、自宅待機、テレワークなどと異例づくしの職場に、よほど面食らったに違いない。
総合解体工事業を軸に、住宅建築やリノベーションなどに事業領域を広げている桑原組(西区己斐本町)は、今春から独自の「新卒育成プログラム」を立ち上げ、新たな新人研修を始めた。現場の安全を徹頭徹尾たたき込むのは当然のこと、先輩社員らが知恵を絞り、手作りで作成したテキスト(334ページ)は同社の歴史や経営理念、ビジネスマナー、OAスキル、社内基幹システム、建設業概要、廃棄物の基礎知識、働き方、ビジネスモデルとマーケティングなど13項目で構成。
研修後も実務テキストとして応用できるよう工夫を凝らす。新人を指導する先輩社員の成長を促す狙いもある。
業歴60年以上。4代目の桑原明夫社長は、
「自分がどうなりたいのか、夢を描く。その一歩からすべてが始まる。むろん基本動作は大事だが、個性を失えば元も子もない。何が本物か、考える力こそ成長の源になり、やりがいを引き出す」
この信念は、自らの体験に裏打ちされている。明治大学卒業後、都銀や生損保会社、大手など7社からもらった内定を蹴り、周囲がこぞって反対したリクルートに入社。当時、1988年に発覚したリクルート事件で政財界が大揺れとなった大スキャンダルのまっただ中で、同期入社は例年から半減し約500人。
反骨心があったのだろう。入社早々、全国2000人の営業マンのうち、2年連続で最優秀表彰を受け、一人白いブレザーをもらった。1日に2000件の電話を掛けまくる日々。目標達成への強烈なプレッシャーにつぶれる社員も多かった。
表彰式で「こんなやり方を続けていると社員の方がもたない」とぶち上げた。当然、上司から大目玉を食らって人事教育課に配転。だが、ここでも持ち前の突貫精神を発揮した。本音をさらけ出さない社員を飲み会に引っ張り「硬い殻をぶっ壊す」勢いでとことん語り合う。人情家なのだろう。まっすぐな気性に相手も心をほどく。やがて本音を話しはじめ、思いがけない発見もあったという。
毀誉褒貶(きよほうへん)。さまざまに取り沙汰されたリクルート創業者の江副裕正氏の言葉「自ら機会を創り出し、その機会によって自らを変えよ」を、そのまま桑原組の人事理念に掲げる。この言葉は、リクルートを退社後も自身の生き方、経営の進め方、人を育てる考え方などに脈打つ。
学生時代に描いた夢を実現すべく、30歳で独立。スリーエム代理店として新会社コラボを設立し、ようやく軌道に乗せた矢先、親族の経営する桑原組がリーマンショックで苦境に陥り、叔父の3代目から経営継承を懇請され、2009年7月に社長に就く。「自らの魂を売る」覚悟だったという。身内の苦難に背を向けることができず、運命を受け入れ、経営再建に全身全霊を注いだ。−次号へ。